アドリーナは海の底で。

なんでもあり と なんにもいらない は よく似てる

 もうちょっと追記しとこう。

白痴が独り言をつぶやいていた地面に埋まっていた「銀色の希望」ってのは
実はきのこだったんだ。


銀色の植物なんて誰も想像もつかなかったから、
例え視界に入ったとしても「きっとガラスやステンレスの残骸」程度に思っていて、誰も気付かなかったんだよね。



この黒い雨の中でも育つ食物。


それは紛れもない希望だった。






正直言うと、このチーム、実はジリ貧なんだよ。
水源はかろうじてあるんだけど、少しなんだ。
そして食物がない。
いまんとこ、この黒い雨が降り出して世界が荒れ果てる(何故荒れ果てたのかはわからない)前の時代の遺物である缶詰?
これがかろうじて残ってたので、それで食いつないでるんだ。
で、水汲みと、外で食料探すのを当番でまわしてんの。(これがなけなしの規律)
白痴も水汲みくらいはできたしさ。勿論付き添いが必要だったが。
ただ、食料探しっていってもたまーにしか見つかんないわけ。木も草もほぼ黒く腐ってるから。
だから缶詰を大事に少しずつ食べてた。なくなったら終わり。
ホントジリ貧なんだよね。


「餓え」ってわかる? わかんないよね。
食べる物がなくて骨と皮になって、動けなくなって、冷たくなっていく。
たぶんそんな未来が見えてるわけだ。




これで白痴が迫害されないのって奇跡だろ?
だって貴重な水と食料を分け与えなきゃいけないわけだよ。
あの身体能力の劣る白痴に。
どう考えたって足手まといだろ?



…何でだと思う?
みんな逃げてんだよ。きっとまだ大丈夫って思いたいんだよ。
心のどこかで現実逃避してんの。まだ余裕があるって。
…それに…考えても見ろよ。
白痴が「切られ」たら、次に切られるのは誰だ?って疑心暗鬼になるだろ。
自分が切られる前に切る。あるいは備蓄を食われる前に食い尽くす。そう考えるようになる。たった一度、誰かが暴走してしまったら、もう絶対エスカレートする。負の連鎖。止められない。暴走して奪い合って食い尽くしてしまう方が、逆にみんなの命は短い。
みんなそれがわかってたから、誰も白痴を切らなかったんだよ。
綺麗事を言ってられるのは豊かだった時代だけだ。
「あの白痴がいなければ、俺たちは生き延びられるんだ!」って言いそうになるのをグッとこらえてくれてた。
無残な奪い合いにならないように。
…賢いだろ?
頭良くて良い奴ばっかりだった。だからやっていけるって思ったし、そこにいたいって思ったんだよ。


ただ、チームにもいろんな奴がいるよ。
のんびり優しい奴もいれば、気が短くてどうしても馴れ合いとか出来ない奴もいる。頭でわかってても、感情や性分ではどうにもならない所もある。
だから気が短い奴は、出来るだけ白痴を視界いれないように努力をしてくれたね。キレたって良いことは何もないってわかってたんだ。
だからキレない努力をしてくれてたんだよね。
…私は、そいつには出来るだけ外に食料探しに行く仕事を振ったりしてた。ニアミスしないように。奴らは頭も良かったし適任。
良い奴だよ。ホント。
みんな賢くてさ。




そしてこのきのこの登場だ。
これが食える代物で、かつ栽培できるとなると、未来はずっと明るくなる。
白痴はずっときのこに話しかけてて、奴はあれを「育ててる」つもりだったんだろう。



もちろん白痴のやることなんざ、基本的に誰も気にしてないさ。
問題さえ起こさなければそれで良いって認識だった。
だから誰も気づかなかった。


場所が場所だった所為もある。
廃墟の裏手は山になってるんだが、2.5mの崖があって土砂崩れがおこってた。
この長雨で地盤は緩んでるし、だれも近づかなかった。
その下にきのこは生えてたんだよね。
ホント、このバカでなきゃ、こんな所には誰も近づかなかったよ。
本当に良かった。こいつを切らないでおいて。
あとは「この事実をいつみんなに知らせるか」とか…考えてた。



なんかさ、幼馴染とは元に戻れなくて落ち込んだんだけど
それでもなんとなくうまく行くような気がしたんだよ。根拠はないけど。
だってみんな良い奴だし。賢いしさ。
時間はかかるかもしれんけど、こいつ等とだったら長い道のりも歩けるだろ。



いつかさ、この空が晴れて、
みんなが顔を見合わせて笑い合えるような日がくる。
脳裏に、幼馴染と自分と、チームのメンバーが、ボタンの取れたジャケットを肩に羽織って笑ってるのが浮かんで、目が覚めた。




たぶんそんな感じ。




ちなみに戦ってた「大きなもの」ってのは鳥だった。
空を埋め尽くすような大きな鳥で、デカすぎて全貌が良くわからないんだ。
んで、たまにやってくるんだが、
その時に空からなんか(石?)が降ってきて、みんな逃げ惑いながら空に向かってむなしく銃を撃つ。
攻撃って言うよりは弾幕だな。ただ追い払ってるだけ。それも命がけで。
効果があるのかはわからないままにやるしかなかった。
何故か武器だけはいっぱいある。強力なものはないけどな。


あの時、廃墟にたどり着いて「よそ者だ」って睨まれた時に、その「鳥」がきてさ。
石?の集中爆撃を受けて、自分も成り行きで一緒に戦う羽目になったんだが
その時、目の前で女の子が武器を取り落としちゃって。
パニくった彼女を背中にかばって武器拾って応戦したわけだ。
努力の甲斐あって、巨鳥の襲撃は間もなく過ぎ去っていったのだが……
その「一緒に戦って危機を乗り切った」みたいな所から少しずつ信頼関係作っていけたっつーか……
「やるじゃん」「助かったサンキュ」的な。
ちょっとずつ警戒とわだかまりが解けてったみたいなトコはあったな。



割としっかりしたストーリーになってるな、これw
一晩で見た割にはw